2016年5月9日月曜日

ARDSの血行動態管理②

Experts' opinion on management of hemodynamics in ARDS patients: focus on the effects ofmechanical ventilation.
Vieillard-Baron A, Matthay M, Teboul JL, Bein T, Schultz M, Magder S, Marini JJ.
Intensive Care Med. 2016 May;42(5):739-49. PMID: 27038480

✔ VILIと血管系
 VILIは肺組織に対する静的・動的ストレスによって生じる。肺胞ではガスと血液は脆弱な膜で隔てられており、換気によって生じた力が十分に高いと血管内の圧や血流そのものがVILIの重症度に影響するようになる。肺水腫により肺サーファクタントは減少し、肺胞の虚脱と開放によるストレスが増加する。実験的には毛細血管前の血圧が高いとVILIの重症度は高くなるが、毛細血管後の血圧を下げても同様の現象が生じる。この原因はよくわかっていないが、West zone 2領域の形成が微小血管内の圧較差を増大させ、ずり応力や血管内皮におけるエネルギー損失を大きくするとする仮説がある。ARDSにおいて心拍出量が増大すると、減少している血管床を通過するために血管内流速が増大することになる。実験的には気道内圧と呼吸数を大きくすることで血流を制限し毛細血管障害を減じることが示されている。逆に気道内圧や血管内圧を変化させないで呼吸数を減らすと障害が減少するという現象も報告されている。含気のある部位だけでなく血管もVILIにおいて重要だとはいえるだろう。この領域の臨床データは少ないが、現時点では、換気と酸素の需要を減らす(呼吸仕事量を減らす)ことに意義があると示唆されている。 

✔ 血行動態モニタ
 血流とガス交換を改善し、VILIのリスクを最小にするために血行動態のモニタは重要である。観血的動脈圧モニタを用いることで血圧をリアルタイムに測定し、脈圧変動(PPV)を調べることができる。注意深く用いれば、PPVによって輸液反応性を評価できる。すなわち、陽圧換気によって一回拍出量が影響を受けやすいのであれば輸液反応性があるとするのである。しかし、自発吸気努力があったり、低一回換気量の設定になっていたり、低肺コンプライアンスの状態では信頼性が低下する。これらの所見はARDSにおいてよくみられるものである。とはいうものの、低一回換気量や低肺コンプライアンスでもPPVが12~13%を超えていたら輸液反応性があるとしてよい。その場合輸液により心拍出量は増えるがPEEPによっては心拍出量が下がる。重篤な右心不全がある患者では、PPV高値は輸液反応性ではなく右室後負荷依存性を示唆する。このような場合、Passive leg raising(PLR)を行いつつ心エコーで右室機能を評価するべきである。PLRによってPPVが減少するなら輸液反応性があると考えられるが、変化しないのなら右室後負荷依存性の存在を考える。
 中心静脈カテーテルはARDS患者に対して心血管作動薬の投与、CVPやScvO2の測定のために挿入されることが多い。CVPは前負荷に対する反応性をほとんど予測しないが、治療に対する右室機能の変化を評価する際には助けになる。食道内圧はPplを推定するために測定されるが、右房の壁内外圧較差(右房圧ーPpl)を計算して、換気が血行動態にどのように影響するかを評価することができるようになる。
 心エコーは心室の大きさや機能に関する情報を収集したり、治療に対する心拍出量の変化を評価したり、換気に対する大静脈径の変化を測定したり、PLRのような輸液反応性試験に対する前負荷の適切性を調べるために治療開始の早期に行うべき検査である。多くの場合経胸壁心エコー(TTE)で十分だが、経食道心エコー(TEE)のほうが急性肺性心の評価には有用である。ARDSにおいて、右室拡張末期面積(RVEDA)と左室拡張末期面積(LVEDA)を測定して比較することで右室のサイズを簡単に評価できる。RVEDA/LVEDAが0.6~1.0では中等度の右室拡張があると判定され、1を超える場合は重度の右室拡張があると判定される。急性肺性心はRVEDA/LVEDA>0.6に加えて心室中隔の収縮末期における奇異性運動の存在によって診断される。心エコーを行う際にはLVEF、LVEDA、心拍出量、LV充満圧を測定すべきである。
 重度のARDSや敗血症で初期治療に反応しない場合はさらなる血行動態モニタを考えるべきである。このような場合、肺動脈カテーテル(PAC)が有用である。肺動脈圧(PAP)、肺動脈閉塞圧(PAOP)、肺/体血管抵抗を測定できる。高PEEPを用いて人工呼吸管理をしている場合、PAOPの壁内外圧較差を計算することで左室の充満圧を正確に評価できる。PACによって心拍出量や混合静脈血酸素飽和度を測定でき、この二つの指標は重要な治療(PEEP、輸液、薬剤)に対する反応を評価する際に用いられる。右室拡張に伴って三尖弁逆流がある場合、心拍出量測定に誤差が生じる。ARDSでは、特に輸液が多い場合、経肺圧(TP)増大に伴ってWest zone 1と2の領域が異常に拡大している。よって、PVRは真の肺血管抵抗より低く計算されてしまう。その場合は経肺圧較差(平均PAP-PAOP)を肺血管の異常を評価する際に用いることができる。
 経肺熱希釈法も用いることができるが、ARDSでは心拍出量よりも肺外水分量や肺血管透過性係数といった指標が重要である。輸液過負荷の害を評価することができる。さらに経肺熱希釈法による心拍出量測定で動脈圧波形解析による心拍出量推定を補正できる。前負荷反応性の指標であるPPVやSVVも用いることができる。しかし、卵円孔開存しているARDS患者では測定値に誤差が生じることが報告されている。多くの侵襲的・非侵襲的波形解析法に基づく心拍出量測定が開発されてきたが、敗血症や大量の血管作動薬を使用している際には信用性が低下する。
PPVに基づく血行動態管理(文献より引用)
◎ 私見
 VILIについては換気メカニクスだけでなく血流も考えないといけないこと、ARDSにおける血行動態モニタの使い方について解説してある。右心機能や肺血管抵抗、肺(外)水分量などは今後もっと注目されるようになるのではないだろうか。評価がすんだら治療を、ということで管理方法についての解説に続く。

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