2015年9月23日水曜日

この患者さん、AKI?

Does this patient have acute kidney injury? An AKI checklist.
Kellum JA, Bellomo R, Ronco C.
Intensive Care Med. 2015 Aug 20. PMID: 26289013


✔ この患者さん、AKI?
 変形性関節症以外は問題のなかった66歳の女性。数年医者にかかったこともなかったが、数日続く発熱と咳で受診。胸部X線写真で右下葉の浸潤影がみつかり肺炎と診断された。血液検査でクレアチニンが1.3mg/dLで、輸液開始2時間で20mlしか尿がでていない。推定GFRは44ml/minである。この患者はAKI?、CKD?、その両方?
 KDIGOガイドラインでも示されているとおり、AKIは臨床診断である。対象としている患者の背景にあてはめて考えなくてはならない。
✔ AKIチェックリストを実際に使用してみる
 AKIを診断する際に考えるべき因子を表にまとめた。実際に使用する際には、エビデンスの質を考慮に入れつつ、どの因子に重きを置くのかを考えながら使わなくてはならないが、AKI More Likelyのチェックが多ければAKIである可能性は高い。
 この患者は65歳以上の女性であり、どちらもAKIのリスクである(表の一番上にふたつチェックが入る)。肺炎もAKIを合併しやすい。変形性関節症でNSAIDsのような鎮痛剤を処方されてはいないだろうか。あればこれもリスクになる。クレアチニンの上昇は、AKIの証拠であると同時にAKIの重要なリスク因子であるCKDの存在を示すので重要である。
 一方、脱水があると思われるが、このため乏尿になっているだけで、実際にはInjuryは生じていないかもしれない(AKI Less Likely)。尿閉が生じているだけかもしれず、慎重な診察が必要である。尿検査は診断の助けになるので重要である。
 クレアチニンを評価する際にはいくつかの点に注意する。カロリメトリックアッセイを用いた計測ではアセトンやビリルビンに影響を受ける。トリメトプリムやシメチジンはクレアチニンの分泌を減らすので併用薬についてもチェックする。しかし、もっとも重要な点はCKDによるクレアチニン上昇かどうかであろう。尿蛋白や尿中白血球だけでなく、必要に応じて画像検査を行う。腎臓の大きさが小さければCKDである可能性が高まる。ただ、CKDだからといってAKIではないということにはならない。CKDはAKIのリスクだからである。実際、この程度のCKDで乏尿にはならないであろう。
 ベースラインのクレアチニンがあると判定が容易になるが、以前の結果があることの方が稀であろう。例えば、MDRDのGFR予測式を75ml/kg/1.73*2を用いてクレアチニンを逆算し、その値と比較してみるという方法もる。この患者では0.8になり、やはりAKIである可能性が高まる。バイオマーカは危険因子の評価だけでなく予後の評価にも用いることができる。
AKIチェックリスト(文献より引用)
◎ 私見
 似たようなシチュエーションに遭遇したことばかりだったので面白かった。考えを整理しておくことは重要だと思う。チェックリストはそのひとつだし、アルゴリズムやプロトコルもそう。こういったツールは、その通りにやらなければならない法というわけではなく、考えを整理する道具として使うべきなのである。

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