2015年9月28日月曜日

リクルートメント手技

Understanding recruitment maneuvers.
Suzumura EA, Amato MB, Cavalcanti AB.
Intensive Care Med. 2015 Aug 20. PMID: 26289012


✔ リクルートメント手技(RM)は経肺圧を一時的に上昇させることでほとんど換気されていない肺胞を再開通させることを目的としている。即時効果として酸素化とコンプライアンスの改善が期待できる。肺胞を開通させる圧をRM中に生じさせることができれば、肺胞が再閉塞する圧は開放圧よりも低いので、肺容量を大きくしたまま保持することができるようになる。これは圧-容量曲線がヒステレシスを描くことから理解できる。つまり、PEEPをある程度高く保っていれば肺胞を開いたまま維持できるわけである。
 RMは酸素化を改善させることが分かっており、肺保護換気や腹臥位換気を行ってなお低酸素を呈している患者に対するレスキュー治療として明らかな意義があるが、RMの臨床研究の多くはRM後のPEEPを適切に保っていないので、RM直後に改善した酸素化がその後急激に悪化していっている事に注意が必要である。実際、PEEPを適切に保った研究では酸素化の改善が数日持続している。
 ARDS患者のRMに対する反応性は一様ではない。肺線維化が進行した状態ではRMに対する反応が低下する。ARDS発症5日目以降ではRMの効果はあまり期待できない。他にも、びまん性病変よりも巣状病変を呈している場合は反応が悪くなるし、もともとP/Fやコンプライアンスが良かったり、死腔が小さい場合もRMに対する反応が悪くなる。
 RMは酸素化を改善するが、ARDSの死因の多くは低酸素ではなくVILIとそれに起因するSIRS、そしてMOFであることに注意が必要である。では、RMはARDSの生存率を改善すると言えるのであろうか? 
 まず、肺胞の液体クリアランスがRMで改善する可能性がある。また、RMにより炎症マーカが抑制されることも示されている。さらに、RMによるコンプライアンス改善によって換気駆動圧を低減することで生存率を改善する可能性がある。
 RMには多くの方法があるが、すくなくともSigh(深呼吸)を導入することの意義はないと証明されている。40cmH2OのCPAPを40秒維持する方法がひろく用いられているが、換気駆動圧を15cmH2Oに固定したままPEEPを階段状に45cmH2Oまで上昇させる方法の方が肺損傷が小さいようである。RMはさまざまな体位で施行することができるが、腹臥位と組み合わせるとより酸素化が改善する。RM後のPEEPの設定には標準的な方法は無いが、少しずつ値を変化させて最もコンプライアンス(動的 or 静的)が大きくなる値を採用する方法が特殊な画像診断を必要としないため良いだろう。適切なPEEPが見つかったら、もう一度肺をリクルートメントしてさらに2cmH2OPEEPを上乗せして設定しておく。
 メタアナリシスによるとRMは中等症~重症ARDS患者の院内死亡率を低下させる可能性が示唆されているが、バイアスが大きく結論は確定的ではない。さらなる臨床研究が期待される。

◎ 私見
 これは明らかにPEEPが足りないだろうと思われる患者に用手的にやや高めの圧で換気を補助すると、それ以後の酸素化とコンプライアンスが劇的に改善することをよく経験する。リクルートメント手技とは言えないほどの低圧でも十分に効果を得ることができることも多い。まずは、しっかりとPEEPをかける、というところから始めないと。リクルートメントは特殊な器械を用いる必要もないので実は少し期待してる。

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