2015年12月19日土曜日

アシネトバクターはなぜ問題か

Why is Acinetobacter baumannii a problem for critically ill patients?
Kollef MH, Niederman MS.
Intensive Care Med. 2015 Oct 16. PMID: 26474995


✔ 初期治療として投与された抗菌薬が起炎菌をカバーしていないと死亡率が倍になるという報告がなされたのは2000年である。ICUにおいても同様の結果を示した追試がなされた。さらに、抗菌薬投与のタイミングが遅れると死亡率が増えるだけでなく在院日数も増加することも示されている。したがって、できるだけ早期に広域の抗菌薬を投与したうえで起炎菌と感受性判明後に狭域化することになる。しかし、耐性菌の蔓延とともに初期抗菌薬治療の失敗は増えており、特にAcinetobacter baumannii(AB)、Pseudomonas aeruginosa、Carbapenemase-producing Enterobacteriaceaeなどのグラム陰性桿菌が問題である。
✔ ABのカルバペネム耐性は個々10年で倍に、また唯一感受性があることの多いコリスチンへの耐性も2.8%から6.9%まで増えている。さらに多剤耐性ABの検出率も21.4%から35.2%に増加している。多剤耐性ABは介護施設入所患者からの検出が最多で約半数を占め、以下、一般病棟、ICU、外来と続く。
✔ 多剤耐性ABによる治療失敗(抗菌薬のカバーから外れてしまう状態)は死亡の強い危険因子である。どうすれば患者を守ることができるであろうか。まず大切なのは、徹底的に感染防御手技を行うことである。多剤耐性ABの伝播において重要なのは感染源コントロールと宿主因子である。感染源コントロールのために環境や備品を洗浄し、手洗いを徹底し、患者を清潔に保つ。例えばクロルヘキシジン清拭により多剤耐性ABの感染が減ったという報告がある。宿主因子については免疫抑制状態や血液浄化療法、人工呼吸器使用などといった危険因子をできるだけ取り除くことであるが、当然ながらこれは非常に難しい。
✔ 有効な治療が無いことが多剤耐性AB感染の管理を難しくしている。コリスチンが重要であり、これを基本としていくつかの抗菌薬(リファンピシン、カルバペネム、スルバクタム、テトラサイクリンなど)を組み合わせて使用する方法が有効であると報告されている。しかし、まだ結論は出ておらず、コリスチンによる腎障害が問題となる。肺炎ではコリスチン吸入が有効である。新規薬剤もいくつか作られている。エラバサイクリンなどである。しかし、新規薬剤を盲目的に使うのではなく、不必要な抗菌薬の使用を減らす体制作り(スチュワードシップなど)がまずは大切である。
アシネトバクター感染症に対する抗菌薬(文献より引用)
◎ 私見
 いまのところ多剤耐性アシネトバクターに悩まされる状況にはないが、すぐそこにある危機と考えなくてはならないだろう。薬剤に頼るだけでなく、標準予防策が極めて重要であることは論をまたない。しかし、そこが実は一番大変なことも事実。特にOpen ICUで様々な科のスタッフが関わるうえに、医師の異動が半年に1回あったりする大学病院とかだとルールの徹底がなされなかったりで…

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