2015年12月14日月曜日

敗血症と乳酸アシドーシス③

Lactic acidosis in sepsis: It's not all anaerobic. Implications for diagnosis and management.
Suetrong B, Walley KR.
Chest. 2015 Sep 17. doi: 10.1378/chest.15-1703. PMID: 26378980

✔ 乳酸の臨床応用
1.いつどのように計測するのか
 アニオンギャップが増大していれば乳酸アシドーシスが存在する可能性があるが、アニオンギャップが正常だからと言って乳酸アシドーシスが無いとは言えない。逆に乳酸アシドーシスが存在している時も、他のアニオンギャップを増大させる原因が隠れていないかどうかを探すべきである。多くの場合、静脈血乳酸値は動脈血乳酸値より若干高値であるが、その相関は強い。よって、動脈血と静脈血、どちらも評価に耐えうる。長時間血液サンプルを放置すると赤血球や白血球に由来する乳酸によって値が上昇するので、採血から15分以内に計測すべきであり、それ以上時間がかかるときは氷冷する。
 乳酸値を重症度の指標とし、トリアージに用いることは特に血行動態が安定している患者において有用である。SSCGでも乳酸値>4mmol/Lを重症敗血症の指標の一つとして採用している。発熱性無顆粒球症患者において、血行動態が安定していたとしても高乳酸血症が存在した場合は48時間のうちに敗血症性ショックに進行すると言われている。

2.乳酸による予後予測
 重症敗血症において乳酸値は予後と相関する。敗血症性ショックでは高乳酸血症を呈した患者の方が予後が悪い。多くの研究で乳酸値の初期値が高く、これが持続する場合に予後不良となることが証明されているが、明確なカットオフ値は判明していない。血行動態の安定した敗血症患者では乳酸値>4mmol/Lが予後不良を予測する独立した危険因子であることがわかっているが、敗血症性ショックに至った例では中等度の乳酸値上昇(2~4mmol/L)も有意に予後を悪化させる。

3.乳酸による治療効果判定
 乳酸値が減少してくれば、予後は良好で治療が適切である証拠であるとされている。Jansenらは乳酸値を指標とした治療プロトコルで予後が改善することを示した。しかし、乳酸単独では治療の効果が適切かどうかを判定することはできない。例えば、敗血症性ショックの患者にアドレナリンを投与して乳酸値が増加したケースでは予後がむしろ良いことが報告されている。アドレナリンによって血行動態が改善した半面、解糖系が賦活されて乳酸値が二次的に上昇したのである。

4.乳酸値と中心静脈血酸素飽和度
 Riversらによってプロトコルに従った早期の治療的介入が有効であることが示された。適切な輸液と血圧維持の後に中心静脈血酸素飽和度を治療指標として採用しているのだが、乳酸クリアランスはこの代替指標として用いることができる。Jonesらは乳酸クリアランスを指標とした群と中心静脈血酸素飽和度を指標とした群とで死亡率に差が無いことを報告している。面白いことに、乳酸値が10%以上減少したにもかかわらず中心静脈血酸素飽和度が70%未満の群の死亡率は、中心静脈血酸素飽和度が改善した群に比べて死亡率が低かった。しかし、乳酸値も中心静脈血酸素飽和度も酸素供給の適切性を評価するという観点からは問題がある。心エコーや静脈血-動脈血炭酸ガス分圧較差などと組み合わせて評価すべきである。ベッドサイドで得られる所見(意識レベル、尿量など)はバイオマーカに比べてずっと価値があるということは忘れられがちである。

5.敗血症における乳酸アシドーシスの治療
 乳酸アシドーシスを治療するためには原因を治療しなくてはならない。つまり、早期の抗菌薬投与とソースコントロールが重要である。ショックの患者では酸素供給量の是正も同時に行わなくてはならない。各臓器局所で産生される乳酸についても考慮しなくてはならない。腸管虚血/壊死、循環不全やコンパートメント症候群による四肢末梢壊死、その他の臓器の機能不全なども検索して治療する。
 初期蘇生では酸素供給量を是正して大循環(Macrocirculation)を立て直す事を目標とする。蘇生プロトコルに含まれる大循環の指標としては中心静脈圧、平均血圧、心拍出量、酸素運搬量などがある。効果的な蘇生のためには、これに微小循環(Microcirculation)の状態も考慮に入れるべきである。舌下部の微小循環を可視化する方法がある。これらの高度な機器の結果や臨床所見(斑状皮疹など)で微小循環障害が明らかとなった場合は、微小循環を改善させるような介入(NO、Protein Cなど)を考える。
 カテコラミンの使用量を抑えることは重要である。β刺激が解糖系を刺激して乳酸値を増加させる可能性があるからである。敗血症性ショックの患者ではノルアドレナリンの投与量を減らしてバゾプレシンを併用した方が予後が良いことが報告されている。チアミンを補充することで好気的代謝を増やせる可能性がある。
 不必要な骨格筋仕事量を減らすことも重要である。例えば、喘息発作で強い呼吸窮迫を起こすと高乳酸血症となることがある。
 肝機能の推移と肝毒性のある薬剤の使用には乳酸を高める可能性があるので注意する。例えば、心不全による肝うっ血や循環不全による肝障害、過剰栄養、肝毒性物質などである。
 乳酸値を下げてアシデミアを是正しようという試みもされてきた。炭酸水素ナトリウムは臨床的予後を改善しない。炭酸ガス産生量を増やし、イオン化カルシウムを減らし、心機能や血管平滑筋緊張に悪影響を及ぼし得る。腎代替療法(RRT)は乳酸値を減らして酸塩基平衡を正常化しうる。しかし、良質な臨床試験はない。Dichloroacetate(DCA)はピルビン酸デヒドロゲナーゼ活性を増強し、乳酸値を減少させ、一方で酸素使用を増やす。RCTでは確かに乳酸値を減らしたが予後は改善しなかった。

◎ 私見
 敗血症での乳酸値の意義のまとめ。計測方法など知らなかったことが分かって満足。途中で述べられているとおり、乳酸値に固執するのはかえって危険。数字ばかり見てないで、ベッドサイドで患者さんに触れないといけないということだろう。

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