2016年3月5日土曜日

VAD装着後の集中治療①

Left ventricular assist device management in the ICU.
Pratt AK, Shah NS, Boyce SW.
Crit Care Med. 2014 Jan;42(1):158-68. PMID: 24240731


✔ 手術直後の管理と血行動態
 動脈拍動は通常蝕知できなくなるため、血圧測定が難しくなる。そこで、術直後は動脈圧ラインを用いた血圧測定が行われる。自動血圧計や聴診による血圧はそもそも信頼できる値を計測できないことが多く、測れたとしても平均血圧や収縮期血圧を過小評価してしまう。上腕動脈のドプラ血圧は動脈圧ラインで計測した平均血圧とよい相関がある。平均血圧は60~90mmHgに維持する。血管内容量が十分なら、VADの回転数を上昇させると平均血圧と拡張期血圧が上昇するが、収縮期血圧は変化しない。血圧が高いと出血性の神経合併症を起こす可能性があるので、その時は流量を減らす。
 パルスオキシメータは脈拍がはっきりしないときは信頼できない。値が低いときは動脈血液ガス分析を行う。
 肺動脈カテーテルがあればショックの診断やVADの機能を評価するのに役立つ。心エコーによって前負荷、心機能、デバイスの位置と機能など重要な情報を得ることができる。心室中隔の形状や心室の大きさを見ることで心機能とポンプ回転数を調節する。大動脈弁が開放していることを確認することも重要である。
 手術直後の血行動態管理は平均血圧、心係数、心室機能に基づいて行う。血管内容量の調節や回転数の調節に加えて強心薬、血管拡張薬、昇圧薬を組み合わせて投与する。
 低血圧の際はアルゴリズムに従って評価と対処を行う。血管拡張により流量が増えることがあるが、これは敗血症の早期徴候のことがある。低血圧に加えてVAD流量が少ないときは心機能や充満圧を評価し、循環血液量減少、右心不全、不整脈、その他の原因(心タンポナーデや機械の問題)がないかどうかを探す。
VADのトラブルシュート(文献より引用)
ポンプ流量低下時の対応(文献より引用)
低血圧時の対応(文献より引用)
✔ 右心不全と肺高血圧
 VAD装着後は左室の負荷がとれるため心室中隔が左室側に移動することで右室の形状が変化する。これにより右室のコンプライアンスは改善するが収縮機能は低下する。VADによって心拍出量が増えるため静脈灌流量も増えるが、慢性心不全のため肺高血圧となり右室の後負荷は高いままになることがある。CVPと肺血管抵抗と肺動脈圧は高く、VAD流量と心拍出量が低くなるのが特徴的である。重度の右心不全では肺動脈圧は低いか正常のこともある。術後1か月はかかって右心系並びに左心系の充満圧が徐々に低下し、右室の仕事量は低下、心拍出量は増加してくる。肺循環の改善はVADの補助下で継続的に起こり、心移植後も続く。
 ミルリノンは重度の低血圧や不整脈を起こすことなく肺動脈圧と肺血管抵抗を下げる。選択的肺血管拡張薬であるNOやエポプロステノールを使うこともある。右室の収縮機能は全身の低血圧で悪化するので、平均血圧は70~90mmHgに維持する。シルデナフィルのようなPDE5a阻害薬が肺血管抵抗を下げるために用いられる。薬物治療に反応しない場合はRVADやVA-ECMOやTAHを考慮する。

✔ 呼吸不全と人工呼吸
 肺胞低換気の領域があると肺血管収縮が起きるため、肺血管抵抗が上昇して右心機能を悪化させることがある。人工呼吸がVADの機能や心拍出量に与える影響は研究されていないため、VAD患者に適切な人工呼吸器の設定も不明である。定常流ポンプのコンピュータモデルを用いた研究によると、胸腔内を陽圧にすることで左室機能が悪化し右室機能が改善するということである。つまり、定常流によってもたらされる右室仕事量の増加分が相殺されるということである。それゆえ、抜管後には右心機能が悪化する患者がいるかもしれない。

◎ 私見
 LVAD装着後の患者の集中治療について抜粋。まずは呼吸と循環について。独特の血行動態となるので、見るべき事項や対処の仕方がいつもと異なってくる。患者さんに関わる人全員がこれを共有している必要があると思うのだけど… 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿