2016年3月2日水曜日

乳酸値を指標とした蘇生は有用か?-We are not sure

Lactate-guided resuscitation saves lives: we are not sure.
Bakker J, de Backer D, Hernandez G.
Intensive Care Med. 2016 Mar;42(3):472-4. PMID: 26831675


 敗血症性ショック患者の蘇生の目的は組織灌流を迅速に回復させることである。しかし、全身ないし局所の低灌流や細胞低酸素を緊密に反映し、正確な組成の指標として用いることのできる臨床的な指標が特定されていないことが問題である。
 高乳酸血症は組織低酸素によって起きると考えられてきた。実験的にも臨床的にも、酸素供給量が減少すると最終的には酸素消費量の減少を起こし、この酸素消費量が減少する閾値において組織低酸素が生じ、乳酸値が急上昇することが分かっている。
 しかし、乳酸は糖代謝の結果として正常でも作られるものであり、適切な酸素供給があっても多くの因子で乳酸値は上昇しうる。おそらくもっとも寄与する因子はストレス環境下でのアドレナリンによる好気的解糖の促進であろう。循環不全により交感神経系が刺激され、エネルギー源として筋肉から乳酸が放出される。つまり、高乳酸血症の持続は、組織低灌流/酸素化不良ではなく、ショックの重症度やストレスの強さを反映しているといえる。
 ほかにも、適切な灌流があっても乳酸クリアランスそのものが低下していると高乳酸血症が持続するかもしれないが、エビデンスは一定していない。Levrantらは安定した敗血症患者において、クリアランスの低下が乳酸値上昇の原因となったことを報告しているが、Revellyらは高乳酸血症の原因ではないと報告している。Tapiaらは早期敗血症モデルの検討で、乳酸クリアランスは無視できるレベルであるとしている。
 まとめると、高乳酸血症の持続は乳酸産生増加とクリアランス低下の不均等によって生じていると考えられる。よって、組織低灌流のほかの徴候が無くなっているのに輸液や昇圧剤を用いて乳酸値を低下させようとすると過剰蘇生となり有害かもしれない。つまり、ショック蘇生におけるジレンマの一つ、組織低灌流が適切かどうかという問題に逆戻りしてしまうのである。この問題に言及した組織灌流の評価に基づくいくつかのアルゴリズムがある。高乳酸血症が持続していたとしても、ScvO2、静脈血動脈血炭酸ガス分圧較差(Pcv₋aCO2)、末梢循環が正常であれば、組織低灌流はほとんどないと判断できるかもしれない。
 この考え方を裏付ける研究が近年報告された。これによると、乳酸値は正常化の過程で二相性の変化をするとされており、それぞれ、早期迅速反応(流量反応相)とこれに引き続く後期の緩徐な回復(流量に依存しない相)からなる。興味深いのは、いくつかの流量反応性の指標(ScvO2、Pxc-aCO2、CRT)は6時間までは乳酸よりも早く正常化することである。これらの指標が早期に正常化した患者群の半数近くは24時間後も乳酸値は正常化していなかった。
 乳酸値を指標とした蘇生戦略は、蘇生早期において、灌流評価法と組み合わせて用いるべきとするデータがある。De Backerらはドブタミンによって早期に微小循環が改善すると、乳酸値も急激に減少することを示している。ICU入室8時間までの乳酸値を指標とした蘇生が予後を改善させるという報告もある。メタアナリシスでも、早期の蘇生が予後を改善するが、遅れると予後を改善しないことが示されている。
 ただ、問題が複雑になるが、Jansenらの報告によると、乳酸値を指標とした群も対照群も乳酸値の経過が同等であるという点である。血行動態管理の方法は両群で有意差がなかったが、介入群で早期の介入強度が高く、フォローアップ中の介入が少ない傾向があった。介入群で予後が良かったのだが、乳酸値の変化とは関係がなかった。van Genderenらは高乳酸血症や乏尿、低血圧等の問題が持続していても末梢循環が正常なら輸液を制限しても安全で、臓器機能も改善傾向となることを示している。これらの研究結果からは乳酸値を指標とした蘇生に疑問を感じる。
 結論として、臨床研究の結果をみても、乳酸値のみを循環の指標とするには単純化しすぎだろう。早期の流量反応期ではいくつかの微小循環や組織灌流のモニタが迅速に変化することが知られており、これらを指標とした蘇生が有効だろう。その後も乳酸値が高値ならば、低灌流を示唆する所見がなければ、持続する敗血症やアドレナリン血症、代謝異常などを鑑別していくことになる。
いくつかの指標の推移(文献より引用)
◎ 私見
 そもそも時相によって評価方法を変えるべきであり、乳酸値は蘇生後期に異常な事態が生じているかどうかを考えるきっかけとして用いる、という意見。全体にScvO2やPcv-aCO2などの指標を推している感じ。中間意見というより乳酸値には否定的な意見ととらえたほうが良いかな。

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