2016年6月13日月曜日

輸液反応性はエビデンスに基づいているか

Is the concept of fluid responsiveness evidence-based?
Saleh AS.
Intensive Care Med. 2016 Jul;42(7):1187-8. PMID: 27143023

✔ 近年発表された二つのメタアナリシスで、MonnetらはPassive leg raising(PLR)は輸液反応性の正確な指標と報告し、EskesenらはCVPは輸液反応性を反映しないと報告している。ここ30年ほど全盛となっている輸液反応性は、輸液治療における聖杯(至高の目標)であり、モニタはこれを正確に評価できるかどうかという点において有用性を判定されてきた。しかし驚くべきことに、輸液反応性の生理学的前提を支持する臨床的エビデンスはない。
 前負荷と心拍出量に関するFrank-Starling曲線に基づき、輸液反応性は輸液負荷によって10~15%心拍出量が増加することと定義されている。しかし、そもそもFrankの原著では単離したカエルの単心室を用いた観察であり、一方、ヒトは二つのそれぞれ異なる特性を持った心室が様々な後負荷や収縮力をもって心拍出量が規定されている。つまり、様々な個人の様々な状況下における様々な心拍出量の変化の割合にどのような意義があるのかと考えなければならない。例えば、健康な脱水のないボランティアではPLRに対して、心拍出量変化のばらつきが大きく(-12%~19%)、10%以上心拍出量が増えたものは45%存在した(輸液反応性あり!)という報告がある。
 Monnetらの報告の”輸液負荷を行う唯一の理由は心拍出量を増やすことである”という序文には、近年のショック状態における大循環と微小循環の矛盾の観点から異議がある。輸液負荷によって微小循環が改善すれば、心拍出量の変化とは関係なく臓器灌流不全も改善すると報告されている。また全身の血行動態とは無関係に輸液が腎血流量を変化させることも報告されている。
 Eskesenらは”輸液過剰が死亡率を上昇させるため輸液反応性のある症例とない症例を明確に区別することは重要である”と述べている。注意すべきは、輸液反応性のない患者に輸液をすることは有害であっても、輸液反応性を利用することで輸液過剰を減らせたとする臨床的証拠はないことである。輸液負荷によって増加した心拍出量は90分後には元に戻る、という近年の報告からもわかる通り、心拍出量を増やしておくためには繰り返し輸液を負荷しなくてはならず、これにより輸液量は多くなる。FACTT研究の後ろ向き解析によると、無作為化の前までの水分バランスは4.5Lほどであり、23%の症例が輸液反応性ありと判定されていたが、輸液反応性の有無と予後には有意な関係はなかったとのことである。
 Monnetらの報告でもPLRや輸液反応性は生存率を有意に改善させていない。しかし、”これは診断学的ツールであり、予後を変化させないからといって有用ではないとは言えない”としている。これには賛成できない。診断的ツールを使おうとするとき、臨床医はその正確度だけを考えるのではなく、その臨床的有用性、使いやすさ、コストを考えるのである。臨床的有用性とは、診断的検査によって、患者予後を改善させるために引き続き行われる介入をどのように変化させればよいのかという情報が提供されることであり、輸液反応性においては輸液をするかしないかという点である。
 輸液反応性検査ではコストのかかる心拍出量測定機器や超音波検査の専門家が必要であり、どこでも利用できるわけではない。これをゴールドスタンダードとする前に乳酸クリアランスや輸液耐性、血圧などのような簡単な指標と比べて予後を改善するかどうかということを検証したエビデンスが必要である。

◎ 私見
 輸液反応性は大流行だが、臨床的に有用だとする証拠はまだそろっていないという意見。ちなみに、このCorrespondenceにはCVPに関するメタアナリシスを行ったEskessenらの論文の共著者であるPerner先生から返事があって、そこには「仰ることはごもっとも。でも、我々の研究はあくまで”輸液反応性”の文脈でのみ見てね」という趣旨のことが書いてある。

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