2016年6月10日金曜日

敗血症にはビタミンS(ステロイド)とビタミンC

"Vitamin S" (Steroids) and Vitamin C for the Treatment of Severe Sepsis and Septic Shock!
Marik PE.
Crit Care Med. 2016 Jun;44(6):1228-9. PMID: 27182850


✔ 重症敗血症や敗血症性ショックは免疫反応の不均衡によって起きると考えられている。NF-κβの過剰な活性化により”サイトカインの嵐”が敗血症早期で生じる。糖質コルチコイドは様々な遺伝的・非遺伝的機序を通じてNF-κβを抑制することから、内因性糖質コルチコイドによるNF-κβの調整がうまくいかなくなることで敗血症早期の免疫不均衡が生じると考えられる。コルチゾルの分泌不全(相対的副腎不全)や糖質コルチコイドに対する組織の反応性の低下が糖質コルチコイド活性低下の原因であると推測されており、Critical illness related corticosteroid insufficiency(CIRCI)という概念が提唱されるに至った(これをビタミンS欠乏ともいう)。CIRCIには様々な病態学的機序が関与している。敗血症性ショックにおいて、副腎細胞はACTHに対する反応性を失う可能性がある。IL10のような抗炎症サイトカインは副腎におけるステイロイド新生を抑制する。基質(高濃度リポ蛋白)の欠乏は不適切なコルチゾル新生を起こす。さらに、ACTH受容体の多型性によりストレスに対するコルチゾル反応性が低下する可能性もある。組織における糖質コルチコイド反応性低下は慢性炎症疾患ではよく知られた現象である。敗血症や急性肺障害のような急性疾患でも、糖質コルチコイド耐性を呈する可能性がある。糖質コルチコイド受容体(GR)の分子学的メカニズムの変化によりシグナル伝達や感受性が変化する。敗血症モデルを用いた研究で、BergquistらはGR-αの発現低下とGR複合体の核内以降を報告している。糖質コルチコイドの抗炎症作用は男性で強い。エストロゲンはGRのリン酸化を阻害して糖質コルチコイドの作用に拮抗すると考えられている。敗血症ではGRのβ-isoform(GR-β)の発現増加が報告されており、GR-βはコルチゾルと結合しないためGR-αに抑制的に作用すると考えられる。
 Cohenらは敗血症性ショックにおける糖質コルチコイド感受性を検討した。糖質コルチコイド感受性はin vitroでLPS刺激に対するサイトカイン産生能を測定することで評価した。健常者と敗血症患者で有意差はなかったものの、敗血症群で感受性のばらつきが大きくなっていた。また、感受性が特に低い患者で重症度が高く死亡率も高い傾向があった。GR-βや11β-HSD-2の発現は敗血症群で有意に高かったが、感受性とは相関しなかった。この研究では両群間に有意差を見いだせなかったわけだが、これは測定系の感度が低かったからかもしれない。糖質コルチコイドのNF-κβシグナル伝達に対する抑制作用を代替指標として用いている。GR標的遺伝子の発現を直接計測するほうがより正確だろう。しかし、この研究は敗血症のような急性炎症疾患の早期に糖質コルチコイド耐性が生じうることを示すものである。重要なのは、視床下部-下垂体-副腎の経路を評価する方法では、このような相対的副腎機能不全や糖質コルチコイド耐性を評価できないということである。
 実験モデルによる検討で、糖質コルチコイドを投与することで糖質コルチコイド耐性に打ち克つことができることが示されているが、これは時間依存性である。炎症促進反応や抗炎症反応の修飾を抑制することに加え、糖質コルチコイドはアドレナリン感受性を増加させ、内皮細胞の結合を回復し、グリコカリックスを維持するという点でも有益であると考えられる。
 敗血症におけるNF-κβのシグナル伝達を抑制するには糖質コルチコイド単独では不十分である。活性酸素種(ROS)もNF-κβの活性化に重要である。サイトカインやLPS刺激でROSは増加するが、抗酸化物質でこれを抑制できる。実験的研究や臨床研究で、大量ビタミンCがNF-κβ活性を抑制し、炎症マーカを減少し、臓器不全も減らすことが知られている。糖質コルチコイドと同様、ビタミンCも内因性ノルアドレナリンやバゾプレシン産生を増加することで血管作動薬の反応性を増加させる。糖質コルチコイドはNa依存性ビタミンC輸送体を増加させて細胞のビタミンC取り込みを増やすので、両者は相乗的に作用すると考えられる。ビタミンCを内服させることでぜんそく患者のステロイド必要量を減らすことができるという報告もある。重症敗血症ないし敗血症性ショックにおいてはステロイド(ビタミンS)とビタミンCを早期に投与することが有用であると考えられる。これを検証するための臨床研究が必要である。

◎ 私見
 NF-κβからみたステロイドとビタミンCの可能性を論じたもの。Marik先生らしい文章。ビタミンCか・・・。ClinicalTrilals.govをみると、いくつかのRCTが予定されている様子。
 「より重症の敗血症ではこのようなアプローチが有用となりうる」、つまり重症度による層別化の考え方と、「従来の方法では副腎機能不全を評価することにはなりえない」という点は重要。特に重症度による層別化は、今後重要になってくるのではないかと思っている。

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